なぜ5Ti-1Bは5対1なのか
2.8%分は余剰Ti
Al-5Ti-1B添加材の母材はアルミ(94w%)ですが、残りすべて(6%)がTiB₂ということではありません.計算してみると1%のBでTiB₂化したとして見合う(化合できる)Tiは約2.2w%程度です.
つまり、
Ti 5%のうち44%(添加材全体の約2.2%分)がTiB₂
↓
残り約2.8%分は余剰Ti となります.
この余剰Tiは「溶存Ti」として溶湯中に供給されます.Tiの一部はAl₃Tiになったり、再溶解してTiになったり(平衡状態)します.
余剰Tiって何?
実は現在では、TiB₂粒子だけでなくTiB₂周囲のTi-rich環境が核生成を助けているとする理論*が有力視されています.5Ti-1BはTiB₂とTiの両方を供給するよう設計された微細化材なのです.
*Ti-rich層説
TiB₂+Ti-rich層=α-Al
・TiB₂→ 効く
・TiB₂ + Ti-rich→ もっと効く
つまりTi-B添加材の狙いは、「大量のTiB₂粒子を足場として利用し、そこにTiの効果を組み合わせること」にあります.
【参考】なぜこのモデルに至ったのか―研究の歴史
TiB₂がどうやって核生成に関わるのかについては、長年議論が続いてきました.現場でTi-B添加材を使っている方には、その背景を知っておかれると理解が深まります.
第1世代:TiB₂直接核説(1950〜1980年代)
もともとは「TiB₂粒子そのものがα-Alの核生成サイトになる」という考え方が主流でした(Cibula, 1951).TiB₂は高融点で溶湯中に安定な微細粒子として存在するため、直接核になると考えられたのです.
しかしこの説では説明できない現象が多数見つかります.
・TiB₂だけでは期待ほど微細化しない
・Ti濃度によって性能が変わる
・Si被毒する(Siの影響でTiB₂粒子が核生成サイトとして機能する能力が低下する現象)
第2世代:溶質効果とAl₃Ti説(1980〜1990年代)
溶存Tiが、すでに成長中の結晶粒の成長速度にブレーキをかけることがわかってきました.他の核が追いつく時間を作るという間接的な微細化メカニズムです。これがTiB₂の直接核生成効果と組み合わさることで、より強力な微細化が実現します。
このようにTiB₂だけでは説明できないことが認識され、「Tiも重要な溶質元素である」という認識が広がっていきました.
第3世代:Duplex Nucleation Theory(1995年)
大きな転換点になったのがMohanty & Gruzleski(1995)の論文です.
Mohanty, P.S., Gruzleski, J.E.
"Mechanism of grain refinement in aluminium"
Acta Metallurgica et Materialia, 43, 2001–2012, 1995.
この論文では、TiB₂粒子を人工的に導入した実験から「TiB₂だけでは十分な核生成は起きない」ことを示し、次のモデルを提唱しました.
TiB₂+Ti-rich層(Al₃Ti様の界面層)→ α-Al
TiB₂は土台であり、Tiが界面に偏析して形成する層が核生成を助けるという考え方です.
ただしこの理論は当初、Sigworthによって熱力学的観点から否定されました.その後Schumacherらの実験的研究によって再び支持されるという経緯がありました.
第4世代:原子レベルでの実証(2021年)
決定打になったのが2021年の研究です.
Li, J., Hage, F.S., Ramasse, Q.M. et al.
"The nucleation sequence of α-Al on TiB₂ particles in Al-Cu alloys"
Acta Materialia, 206, 116652, 2021.
高分解能STEM観察により、Al-5Ti-1B中のTiB₂粒子の基底面(basal plane)上にTi-rich層が実際に存在することが原子スケールで確認されました.1995年の仮説が、約25年後に直接観察で支持されたのです.
なお、この研究はAl-Cu系合金を主対象としており、Al-Si系鋳造合金への直接的な一般化には引き続き注意が必要です.
現在の理解(2020年代)
現在の主流モデルは次のとおりです.
TiB₂粒子(土台)+Ti-rich layer(TiB₂格子にTiが吸着)→
α-Al+Tiの溶質効果(結晶粒の成長抑制)→他の結晶核が生成できる
↓
豊富なα-Al
Tiが単体で結晶核になる訳ではなく、TiB₂だけでも十分でありません.溶存Ti(アルミ液相中に原子レベルで溶解している状態)とTiB₂の両者の組み合わせが重要です.
6Ti-2.62B
一方、Al-6Ti-2.62B添加材はTiとBがほぼ化学量論比(化学反応式どおりに過不足なく反応する原子量の比率)に近くなっています.(ぴったり釣り合うのはTi 6に対して2.71、約T : B=2.2 : 1です)製品がなぜ2.71じゃなくて2.62なのかは不明です.ご存じの方がいたら教えてください
つまり、Al-6Ti-2.62BはほとんどがTiB₂です.そのため6Ti-2.62Bは、Ti-rich効果よりもTiB₂粒子数を重視した設計と考えることができます.
かなり単純化して言えば、
・5Ti-1Bは TiB₂+Ti-rich型
・6Ti-2.62Bは TiB₂重視型、あるいは残留Tiがある溶湯向きの添加材
ということができます
残湯操業でなぜ6Ti-2.62Bが使われるのか
残湯操業では、前日の溶湯を保持し、翌日以降もそのまま使用します.このとき問題になるのがフェーディングです.残湯にはどういう減少が起きているか
・粒子の沈降
TiB₂粒子は再溶解せず、時間の経過に伴って沈降します.TiB₂の比重は約4.52 g/cm³(文献値)で、アルミ溶湯よりかなり重い材料です.粒径が小さいため沈みにくい(ストークスの法則)ですが、長時間静置すると、比重により微粒子は炉底へ沈降します.その結果、上層の溶湯では核の数が減少し、微細化効果が低下します.
・粒子の凝集
TiB₂粒子同士が集まって塊になることがあります.凝集して塊になるとストークスの法則により沈降が早まり、核の総数が減少するため、結晶粒は粗くなります.
・有効Ti濃度の低下
微細化にはTiB₂だけでなく、溶湯中のTiも重要です.保持時間が長くなるとTiの分布状態が変化し、核生成能力が低下します.
・2.8w%の余剰Tiから生成されるAl₃Ti
余剰Tiの一部はAl₃Tiになったり、再溶解してTiになったりします.Al₃Tiは溶湯温度やTi濃度に応じて再溶解してTiを吐き出します.この行ったり来たりする状態を平衡状態といいます.Al-5Ti-1B添加材を入れた残湯にはTiがいます.
この余剰Tiがいるため、残湯操業では6Ti-2.62Bを添加します
かき混ぜてあげるとよりTi濃度は回復しますし沈んだTiB₂も舞い上がると思いますが、不良の原因になるものも舞い上がるため熱分析装置がないと適切な沈静時間を持てないと思います
注意点
Ti-Bの使用には注意点もあります
Siによる被毒(Poisoning)
TiB₂粒子は存在しているのに,核生成サイトとしての働きが弱くなる現象です.機序についてはいくつかの説があり機序は明確ではありませんが、いくつか説があります
共通しているのはSiがTiの働きの邪魔をしてTiB₂表面のTi-rich層が形成されにくくなるということです.このようなときには6Ti-2.62Bの追加添加は効果が低い可能性があります.なぜならTiB₂を増やしているだけだからです.
対策としては、
Ti配合されたインゴットか5Ti-1Bを添加してTi量を増やしてみると微細化効果が回復することが多いですが、ただし回復には限界があります.
Ti-C-B
Siに邪魔されにくいとされているTi-C-Bも選択肢です.フェーディングしにくいメリットもあるようですが、高いです.高いですが、添加量を減らせたり残湯運用もできるのなら案外良いのかも知れませんね(当社では未確認)
*但しTi-C-Bでも添加量によってはPoisoning的な挙動も報告されています
(参考)Mechanism for Si Poisoning of Al-Ti-B Grain Refiners in Al Alloys
(参考)Development of Al–Ti–C grain refiners and study of their grain refining efficiency on Al and Al–7Si alloy
時々、「残湯ではホウ素が減るから6Ti-2.62Bを使う」という説明を聞くことがあります(ホウ素が、Tiと不純物金属との化合を防いで犠牲(消耗)になってくれるという論文もありますが).しかし核生成サイトを増やすという目的において、沈降による有効なTiB₂粒子数の減少として理解した方が実態に近いでしょう.TiB₂とTiB₂周囲のTi-rich環境が核生成を助けているからです