ΔTR、DCPとは - 海外の溶湯管理研究
先日、とある東海地方の鋳造機側の技術コンサルタントもされている社長さんの工場に伺ってきました.
あわよくば教えていただいたり、コラボできないかという魂胆でしたが、型締め1,000tのマシンを使っても何箇所か引けていたり、溶湯が届いていない箇所もありました.内部欠陥もあり加工すると表面化してしまう状態.「なかなか安定しない」とのこと.鋳造機を専門にされている方でもこんな感じなんだなと.興味深い訪問でした.
単一原因ということはないですが、溶湯管理をしていないからでした
大阪で「セラミックフィルタを入れているから汚れているはずがないだろ」と言われたことがあります.フィルタがあっても汚れていますし、当社が見ているのはそこだけじゃありません.
この続きを読めば、上記の工場でなぜこうなるかの一因が少し理解できます.
また、今回はこの鋳造工場を題材に欠陥の原因を解説しようと思いますが、当社の理論によらずに、海外の論文で説明できないか調べてみました.結果、共通点が多いというレベルではなく、着眼点やどんな不具合と因果関係があるか、相関するかの結論も同じでした
アルミの熱分析は、日本国内のアルミ鋳造専門家に長い間否定され続けてきましたが、海外研究者は同じ分析手法で同じ結論に辿り着いていました.
凝固時に何が起きているかを理解できると、欠陥の対策がわかり、それを管理するには何を測ればいいのかがわかります.鋳造前に分析して管理指標から外れていれば、溶湯処理をしてから鋳造を始めれば良品率を上げられます.
・不良が減れば装置代はすぐに元が取れます
・現場に試行錯誤が生まれ、若手が、現場が育ちます
・会社には利益が残ります
熱分析は研究機関や生技、現場でも即戦力
この熱分析は、もはや当社だけが研究している汎用性のない技術ではありません.大学や研究機関も取り組んで論文も発表されている普遍的な分析技術です.新しく投稿された最新研究を参照したり、現場に取り込むのには必要な装置です.今後新たな指標や現象との相関関係が研究対象になったとしても生データを取り出せるので、そこから計算が可能です.
また生産技術や現場が使う炉前溶湯管理装置としても即戦力として使えます.
他社に真似されないように内容は秘密ですが、他社よりも精密で正確な分析ができます.
「結晶粒の隙間」がひけ巣になるわけではない
まず、よく耳にする「卓球ボールとバスケットボール」の例えから考えてみます.
おそらく直感的に分かりやすくするためですが、コンサルタントが「結晶粒が細かいとひけ巣が減るのは、バスケットボールより卓球ボールを箱に詰めると隙間が小さくなるのと同じ」と説明することがあります.結晶粒が小さければ粒と粒の間の隙間も小さくなるので、ひけ巣も小さくなる――という説明です.
しかし本当は違います.ボールの大きさが異なっても(壁際効果が起きない程度に)十分に大きな器に同じ詰め方で最密充填をすれば “数学的に” 充填率(約74%)も空洞率(約26%)も同じになります.そして結晶粒は球状ではありません.
実際のアルミ合金の凝固では、もっと重要な違いがあります.凝固途中の結晶と結晶の間は「空洞」ではなく、まだ凝固していない残液で満たされています.したがって、結晶粒間の隙間 = 凝固収縮巣(“引け巣”) ではありません.
ひけ巣が発生するのは、凝固収縮によって不足する体積を、残っている溶湯によって十分に補給できなくなったときです.つまり問題の本質は、結晶がどれだけ隙間なく並ぶかではなく、充填の後 凝固中にFeeding(押湯)できるかにあります.
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α-Alはデンドライトとして成長する
まずは結晶核が結晶粒に成長する過程を理解しましょう.
ADC12などのAl-Si系合金溶湯が冷却していくと、まずα-Alが晶出します.α-Alは通常、球のように成長するのではなく、木の枝のような形で成長します.これを、デンドライト(dendrite:樹枝状晶)と呼びます.ある程度はご存知ですね.
ここで一旦 用語を整理します
・α-Al:Al-rich固溶体(ADC12では初晶α-Alとして晶出)
・結晶粒(grain):同じ結晶方位を持つ領域
・デンドライト:凝固中に結晶が示す樹枝状の成長形態
一つの有効な核からα-Al結晶が生成し、それがデンドライト状に成長していきます.
同じ結晶核から成長するα-Alは一定の結晶格子(FCC)の向きを持っており、その結晶方位によってデンドライトが成長しやすい方向が決まります.デンドライトは幹から二次枝、三次枝へとさまざまな方向に枝分かれしていきますが、同じ核から成長した部分は基本的に同じ結晶方位を持っており、その領域全体が一つの結晶粒になります.隣のデンドライトとぶつかったところで粒界を形成します.
イメージです
DCP:デンドライト・コヒーレンシーポイントとは?
この言葉は初めての方もいらっしゃるかも知れません.
この後に研究論文も紹介しますが、核生成能力が高い溶湯はデンドライトが粗大に成長せず、押湯・増圧が効く領域と時間が長くなる(正確には違いますが、一旦わかりやすくこう説明しておきます)という現象が、ADC12でも確認されています.もちろん4C等でも(別論文で)
凝固初期には、生成したα-Alとそのデンドライトはまだ互いに独立しています.
周囲には十分なアルミ溶湯があり、デンドライト結晶粒もある程度移動でき、液体も比較的自由に流れることができます.
ところが凝固が進むとデンドライトが成長し、隣のデンドライト同士で接触し始めます.やがて鋳物全体につながる三次元的な固体ネットワークが形成(多孔質体とも言えます)されます.この状態になり始める点が、Dendrite Coherency Point(DCP:デンドライト・コヒーレンシーポイント)です.DCPはFeeding(凝固収縮分の溶湯を補給すること)を考えるうえで非常に重要です.
Feeding(補給)
凝固収縮によって不足する体積を、残液や半凝固金属の移動によって補うこと
DCPを遅くできれば補給(押湯)が効く
DCPに達する前は、デンドライトの枝同士が接触しておらずまだ連続した固体の骨格(coherent dendritic network)が完成していません.そのため液体は比較的自由に移動できます.このような状態での補給を、Mass Feedingと呼びます.
Mass Feeding(マスフィーディング:固液混合状態での補給)
DCP以前に、互いに連結していない結晶粒と残液がスラリー状で一緒に移動して行われる補給、充填
ところがDCPを過ぎると、デンドライトがネットワークを形成します.その後、残液はデンドライトの枝と枝の間にある細い通路を流れなければなりません.これが、Interdendritic Feeding(デンドライト間補給)です.Farahanyらも、DCPをMass FeedingからInterdendritic Feedingへ移行する点として説明しています.押湯を利かせようと増圧して収縮分を補給(Feeding)されるようにしたくても届きにくくなるということです.
Interdendritic Feeding(デンドライト間補給)
DCP以降に、連結したデンドライト骨格の隙間を残液が流れて行われる補給、充填
整理するとこういうことです.DCP後は、
・圧力が大きいほど流れやすいが、
・流動距離が長いほど流れにくい(圧力勾配もあります)
・粘度が高いほど、デンドライト間流路が狭く複雑になるほど透過率が低下し流れにくい
高校か大学、あるいは講習で聞いたことがあるかも知れません.さっき多孔質体というヒントを書いておきましたが、こういう法則がありましたね
ダーシーの法則(Darcy's Law)
Qが流量、Aは溶湯が通過する多孔質領域の見かけの断面積、Lは流動距離、kはデンドライト間流路の通りやすさを表す透過率、μは溶湯の粘度、ΔPは圧力差です
つまり凝固収縮分を補う給湯(Q)を行うには、分子を増やして分母を減らすにはどうするかを考えればいいわけです.
・ΔPを大きくする
・kを大きくする(これはブログ最後で紹介する論文の件と、あとは溶湯側で狭い流路で閉塞させないように酸化膜や介在物、bifilmを除去しておくこと)
・μを小さくする(粘度を上げてしまうフラックスもありますので、適切な処理を)
・AやLは製品形状や方案設計に依存しそうです
実際の対策としては、こうなりますね
・適切なフラックス処理や鎮静 or 沈静をして酸化膜や介在物、金属間化合物、bifilm、ガスを除去する
・熱分析を行い適切な処理をして、そもそもDCPがになるタイミングを“遅らせる”
DCPが早い溶湯では、凝固収縮巣だけでなく、凝固を伴う未充填や湯回り不良にも不利になります。ただし未充填や二枚皮は、流速・金型温度・充填時間・湯流れ・酸化膜など他の要因にも強く左右されます。冒頭の事例のように、鋳造条件設定のコンサルタントをされているような方でも自社の鋳造機で解決してませんでした.これは凝固科学を知らないからです.
鋳造機側での対策は無理だと思いませんか.良品の幅が広がる対策は溶湯管理です
自社の炉ではどうなのか、今日の溶湯は大丈夫なのか、当社の熱分析器を使うとわかります
熱分析とは?
一般的な工場の保持温度は680〜720°Cぐらいでしょうか.レードルで汲み鋳型にアルミを注湯した後、温度がどう下がっていくかはご存知ですね.
4択問題です
1)\ 凝固しながら徐々に一直線に下がる(縦軸=温度、横軸=時間としたときに)
2)¬ 注湯時から温度が変わらず、凝固するとストンと下がる
3)∟ 注湯するとすぐにストンと下がり、徐々に凝固する
4)\〜ヽ 注湯すると急激に下がるが突然温度が上昇し、その後は1〜2回上下しながら徐々に下がる
さて、答えは4です.
直線ではなく曲線を描きます.これを冷却曲線といいます.この最初の初晶反応を見ることで、その溶湯のα-Al核生成・成長特性を評価できます.この後 紹介するFarahanyらの論文では、結晶粒微細化材によってこの初晶反応が変化すると同時に、DCPも高固相率側へ移動しました.したがって、同一合金・同一測定条件で十分な実績データを持っていれば、初晶反応をDCP挙動や鋳造性を推定するための管理指標として利用できます.DCPを“遅らせる”(正確には「高固相率側へ移動」)ことができた結果「湯流れが良い」と感じる方もいます.(湯流れそのものが良くなった訳ではなく)DCPが“改善”すると、凝固によって流動を阻害する固体ネットワークの形成も遅れるため、条件によっては湯流れが改善します.溶湯が器質的にサラサラになる訳ではないです.
熱分析用語の理解
関連論文を紹介しながら、まずは用語を理解していただきます.※論文中の用語です
Farahany論文(2015)※ファラハニ氏
Sr処理したADC12にAl-3Ti-BおよびAl-5Ti-B系結晶粒微細化材を添加し、その過冷却(TN-Tmin)などの変化を観察した論文
https://www.researchgate.net/publication/271831478
Djurdjevic論文(2012)※ジュルジェヴィッチ氏
DCP(Dendrite Coherency Point)の意味を整理しつつ、熱分析でDCPを実際にどう検出するかを示した実用的な方法論
https://www.researchgate.net/publication/257615709
【重要】
注湯から初晶プロセスの完了に至るまでの温度変化に幾つかの特徴点があります
【重要】
注湯温度(700°C前後)
↓
TN(α-Al核生成が開始する温度)
以降核生成とデンドライト成長が続きます.初晶ができ始めた温度です.
↓
Tmin(過冷却して最も下がった温度)
この直後に発熱量が放熱を上回り、復熱に転じる最低温度(曲線上で初めてdT/dtが0になる点)
↓
TG(復熱後に到達する最高温度)
曲線上で2回目にdT/dtが0になる点.ここは初晶温度ではありません.発熱を伴う生成核とデンドライトの増加と成長を経て、発熱と放熱が釣り合った(接線の傾きが0)温度です.GはGrowthの略だそうで、デンドライトや固相率の安定的な成長(Growth)に移行する温度とされています
ΔTR(TGからTminを引き算した温度差です)
潜熱が放出されて復熱した温度差です(ΔTR=TGーTmin)
詳しい方向けの補足)
著者らは冷却曲線と一次・二次微分を使って TNやTG などを計算したとしています.当社ではTNを特定せず評価にも使用していませんが、TminとTG(dT/dtが0になる点)を特定する方が誤差が生まれにくく安定した測定ができます.またTiB2添加量との十分な相関が得られることを確認しています.
ちなみにTNを特定するには冷却曲線を一次微分(dT/dt)や二次微分(d²T/dt²)から、ごく小さな傾き変化を検出する方法が紹介されています.FarahanyらはΔTR(TG−Tmin)を結晶粒微細化効果を評価する指標の一つとして用いています。一方Djurdjevicらは、一次微分曲線から核生成・成長およびDCPを解析する方法を示しています。
熱分析で初晶反応を分析すると、以下のことが推定できます
・その溶湯の結晶核生成能力
・熱分析の生データ(CSV)からさらに解析するとDendrite Coherency Point(DCP)
低い固相率でデンドライトネットワーク(多孔質体)を形成してしまう溶湯より、より高い固相率までMass Feedingできる溶湯の方が、凝固収縮分の補給には有利ということはわかりますね
押せない溶湯なのに、マシン側の鋳造条件でがんばってもしょうがない.押せる押せないは当社の熱分析でわかりますし、鋳造性の落ちた溶湯の修正方法についてのトレーニングも提供しています.
ΔTR(TG-Tmin)が大きい/小さいとはどういうことか
溶湯が冷却して液相線付近まで温度が低下しても、ただちに十分な数だけのα-Alが生成するとは限りません.核生成し、成長を開始できる条件が整うまで、さらに温度が低下することがあります.これが過冷却(undercooling)です.Farahany論文のFig.2(b)を見てみてください.ダウンロードできます
https://www.researchgate.net/publication/271831478
そして過冷却を経てα-Alの核生成が始まり、そこからα-Al結晶が成長すると、凝固に伴って潜熱が放出されます.この潜熱放出が周囲への放熱を上回ると、温度低下が一時的に止まったり、温度が上昇したりします.これがリカレッセンス(recalescence:復熱)です.
初晶の過冷却が大きいということは、液相線温度を下回ってもα-Alの核生成・成長がなかなか進まず、凝固を本格的に開始するために、さらに大きな温度低下を必要としたことを意味します.
反対に初晶過冷却が小さいということは、比較的小さな温度低下でα-Alの核生成・成長を開始できたことを意味します.これは、α-Alの核として有効に働く粒子が多い、あるいは核生成能力の高い粒子が存在するなど、α-Alが核生成しやすい溶湯であることを示しています.以前ブログで紹介しましたね
したがってΔTRは、核そのものの「個数」を直接測定しているわけではありませんが、α-Alがどれだけ核生成しやすい状態にあるかを知るための指標の一つと考えることができます.高い精度で測定し、環境の異なる様々な工場に誤差なく対応でき(秘密の工夫)、独自の分析を加えたければ生データをCSVでもダウンロードできるのは当社の装置だけです
なお、当然ですが熱分析で見ているのは初晶反応だけではありません.(ここでは扱いませんので、興味がある方は営業担当までご連絡ください).別のブログで書くかも知れませんが、未定です
知りたいのはDCPでは?
その通りです.ここが今回の話の重要なポイントです.
Malekan(マレカン氏)とShabestari(シャベスタリ氏)がA319合金にAl-5Ti-1B微細化材を添加したところ、DCPに到達したときの固相率は、約16% → 約21%へ増加しました.つまりTiB2とTiを添加することで、デンドライトネットワークが形成されてしまうまでの時間(DCP)が伸びた(押湯が効きやすい時間が増えた)ことになります.しかもその間に凝固が進んでいないのではなく、固相率が約16% → 約21%へ増えたというのです
さらにFarahanyらのADC12でも、同じ傾向が確認されています.TiB2添加によってDCP時の固相率は高くなり、著者らはその結果を、Mass Feedingが延長されたと解釈しています.
固相率の話がようやくできましたので、「DCPを“遅らせる”」という表現をここでやめます.放熱しないように(断熱)したとしてもDCPも遅れるからですが、断熱すればいい話ではありません.正確には、ΔTRが小さいとDCPが高固相率側へ移り、同じ冷却条件ではDCP到達時間も遅れることになる.結晶核生成能の高い溶湯では、凝固はより進んでいても(固相率16%→21%)まだデンドライトネットワークは完成せず(多孔質組織的になっておらず)まだ押せば溶湯が供給できるチャンスのある状態になる、です
ΔTRが小さいと→α-Al結晶核生成能の高い溶湯→DCPを高い固相率側へ移せる
加えてこれは当社の研究ですが、そもそもの合金成分と適切なフラックスの使用によってはΔTRが浅くできることがあります.
但し汚れ(酸化膜)が多い場合にもΔTRが浅くなりますので、区別が必要です.見分け方はあります.そして別の処理が必要になります.(ここでは扱いませんので、興味がある方は営業担当までご連絡ください.)
つまり、初晶反応にだけ注目すると
ΔTRが小さい
※但し酸化膜が多い場合にもΔTRが浅くなりますが、別の指標で区別できます
↓
有効核生成能が高い
↓
結晶粒が微細化する
↓
DCPが高固相率側へ移動する
↓
Mass Feedingできる領域と時間が長くなる
という現象が、ADC12でも実験的に確認されているわけです.
DCPと固相率
そしてΔTRでも指標として十分ですが、Djurdjevic(ジュルジェヴィッチ)論文では当社のような熱分析器で記録した冷却曲線からDCPを特定できる方法を提案しています。冷却曲線を微分(dT/dt)し、それを温度に対してプロットし、曲線が水平傾向から急に外れる elbow point をDCPとしています.Djurdjevic論文のFig 7のPoint Bです.冷却曲線から固相率曲線も別途計算すれば、DCP時の固相率を求めることができます.当社の熱分析器は温度時系列データをCSVで出力できますので、そのデータからDCPを計算することもできそうです.需要があればコードを書きますが、熱分析器をお持ちの会社さまはぜひ試してみてください.
※なお当社の熱分析器にDCPを特定する機能はありません.ΔTRで十分だからです
ダイカストの「増圧」を加えて考える
ダイカストではキャビティ充填後、プランジャを介して増圧が加えられます。また必要に応じて局部加圧ピンを用いる場合もあります。この圧力には、凝固収縮を補うためにゲートから金属を押し込むFeeding効果があります.
DCPを高固相率側へ移動させることができれば、充填中には凝固による流動停止が起きにくくなり、充填後には増圧によるFeedingが有効に働ける範囲も広がると考えられます
DCP以前では、まだ液体が連続して存在し、デンドライト間のネットワークも完成していません.したがって、増圧によって加えられた圧力と金属の移動は、鋳物内部へ作用しやすい状態です
一方DCPを超えると、連続したデンドライト間ネットワーク(固体骨格)が形成され多孔質体になり、液体はデンドライト間の狭い流路を通らなければなりません.そのため、単純な液体としてのMass Feedingは徐々に難しくなります.
つまり
ΔTRが小さい
↓
有効核生成能が高い
↓
結晶粒が微細化
↓
DCPが高い固相率側に移る(≒“遅らせる”)
↓
液体としてMass Feedingできる固相率範囲が広がる
↓
ダイカストの増圧によるFeedingが有効に働ける範囲も広がる
↓
凝固収縮を補いやすくなる
↓
ひけ巣が減少する
というメカニズムを考えることができます.
Farahanyらの研究によって、微細化 → DCPの高固相率側移動 → Mass Feeding時間が延長することはADC12で確認されています.Otarawanna(オタラワンナ)らの研究によっても、増圧 → Feedingの改善 → porosity低減もHPDCで確認されています.
鋳造機側で調整するよりも、実は溶湯側をよく知ることで良品の幅が広がります.まずは分析を依頼いただくとお安く始められます.
1)オンサイト
鋳造現場に分析器を持ち込んで立ち会いのもとお調べする方法
2)オフサイト
インゴットとリターン材を送って頂いて、当社の分析室でお調べする方法
費用は検体数によりますので、ご相談ください
2025年のADC12ダイカスト研究も興味深い
さらに興味深い研究があります.但し、熱分析ではなく示差走査熱量測定で得た凝固温度情報と流動モデルを使ってdendrite coherencyを議論している論文です
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2238785425015534
この研究では、Al-Nb-B系微細化材をADC12合金溶湯に0.5 mass%添加しています.その結果、ポロシティまで改善したとのこと.
・過冷却量:10 → 6 ℃
・SDAS:12.4 → 8.8 μm
・porosity:1.2 → 0.8%
・flow length:910 → 1000 mm
・UTS:275 → 300 MPa
・伸び:3.5 → 5.2%
結晶粒が微細になる溶湯だと、充填流動性だけでなくポロシティや機械的特性までも改善したようです.
ぶつぶつの原因を取り除けるということではないですが、目立たなくできる可能性はありますね.鋳造技術や現場リーダーの方は見ておいても良い研究かもしれません.
他にもΔTRやDSCと鋳造品の欠陥や品質の関係を論じている最新研究も多いです.最新研究を自社設備に落とし込んで製品に取り入れるには熱分析が必要だと思います
結晶粒は細かければ細かいほどよいのか?
実はこれも違います.
EastonとStJohnは356合金のホイール鋳物などを調べ、微細化材には最適量があり、それを超えて微細化すると欠陥が逆に増加することを報告しています.
著者らはその理由を、
結晶粒が小さくなることでInterdendritic channelも小さくなり、凝固後半のFeedingが早く制限されるためと説明しています.
つまり微細すぎる状態にしてしまうと、
凝固前半
DCPがより高固相率側に移動する→ Mass Feedingを長くできる
という有利な面がある一方、
凝固後半
Interdendritic channelをより細くする→ Interdendritic Feedingを悪くする
可能性もあります.
ほとんどの工場ではDCPが低固相率側に傾いてる溶湯が多いので気にしなくて良いのですが、結晶粒は単純に「細かければ細かいほど良い」というものではありません.微細化にはDCPを高固相率側へ移す利点がある一方、過度な微細化は凝固後半(DCP以降)の透過率を低下させるので注意は必要です
最後に
凝固収縮関係の不具合の機序とその熱分析について説明しましたが、いかがだったでしょうか.分析や詳しい説明を希望される場合には営業担当までご連絡ください.
初晶の過冷却現象をよく観察すれば、この辺りのことを数値で管理でき、過冷却現象は熱分析装置があれば見ることができます
この熱分析は、もはや当社だけが研究している汎用性のない技術ではありません.大学や研究機関も取り組んで論文も発表されている普遍的な分析技術です.日本国内のアルミ鋳造専門家には長い間否定され続けてきましたが、海外研究者は同じ分析手法で同じ結論に辿り着いていました.新しく投稿された最新研究を参照したり、現場に取り込むのには必要な装置です.今後新たな指標や現象との因果・相関関係が研究対象になったとしても生データを取り出せるので、そこから計算が可能です.
また生産技術や現場が使う炉前溶湯管理装置としても即戦力として使えます.
他社に真似されないように内容は秘密ですが、他社よりも精密で正確な分析ができます.
例に挙げた欠陥以外でよく見かけるのが泡のようなブツブツとした細かい “ヒケス” です.これは引け巣とは限りません.肉厚部や酸化膜がトラップされる場所によく発生し、加工して表面化したりします.
ケース鋳物で、蓋をして密着させないといけない箇所に出てしまうと「モレ」不良になります.脱ガス処理は適切に行われているのだとしたら、酸化膜が原因なことが多いです.
今回は説明しませんでしたが、酸化膜が原因の場合の不良も熱分析で判定できます
※技術ブログの文責は神戸オフィスにあります.説明には工夫を凝らし用語の解説も加えましたが、私の理解や解釈に誤りがある可能性はあります.この場合は論文の原文を正とお考えください.誤りがありましたらご指摘いただけるとありがたいです.
参考文献
1.Farahany, S., Idris, M. H., Ourdjini, A., Faris, F., Ghandvar, H.
“Evaluation of the effect of grain refiners on the solidification characteristics of an Sr-modified ADC12 die-casting alloy by cooling curve thermal analysis.”
Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, 119, 1593–1601 (2015).
DOI: 10.1007/s10973-014-4367-1
ADC12について、Al-Ti-B系微細化材によるα-Alの核生成・成長、リカレッセンス、DCPなどを熱分析した研究.微細化材添加によってDCP時固相率が高くなり、Mass Feedingが延長されたと報告している.
2.Malekan, M., Shabestari, S. G.
“Effect of Grain Refinement on the Dendrite Coherency Point during Solidification of the A319 Aluminum Alloy.”
Metallurgical and Materials Transactions A, 40, 3196–3203 (2009).
DOI: 10.1007/s11661-009-9978-y
A319合金で結晶粒微細化とDCPとの関係を研究.Al-5Ti-1B添加によってDCP時固相率が約16%から21%へ増加し、DCPが遅れることを確認している.
3.Otarawanna, S., Gourlay, C. M., Laukli, H. I., Dahle, A. K.
“The Influence of Intensification Pressure on the Gate Microstructure of AlSi3MgMn High Pressure Die Castings.”
Materials Science Forum, Vols. 618–619, p.607–610 (2009).
HPDCにおける増圧とFeedingの関係をゲート組織から調査.高い増圧条件ではporosityが低減し、凝固収縮を補うFeeding機構の変化が確認されている.
4.Easton, M. A., StJohn, D. H.
“The effect of grain refinement on the formation of casting defects in alloy 356 castings.”
International Journal of Cast Metals Research, 12(6), 393–408 (2000).
DOI: 10.1080/13640461.2000.11819377
356合金では、微細化材を最適量以上添加すると収縮欠陥が増加.結晶粒微細化によってInterdendritic channelが小さくなり、凝固後半のFeedingが制限されることを原因として説明している.
5.“Effects of Al–Nb–B grain refiner on the microstructure and cast fluidity of die-casting ADC12 alloy.”
Journal of Materials Research and Technology (2025).
DOI: 10.1016/j.jmrt.2025.06.131
ADC12ダイカストに0.5 mass% Al-Nb-B微細化材を添加し、初晶過冷却量が10 ℃から6 ℃へ低下、湯流れ長さが910 mmから1000 mmへ増加、porosityが1.2%から0.8%へ低下したと報告.DCP形成の遅延も流動性改善機構の一つとして考察している.