『Campbellの鋳造10則』を読んでみた その2

John Campbell(キャンベル)教授の著書レビューの続きです.

Campbell氏は英国の鋳造研究者で、その著書『Castings Practice: The 10 Rules of Castings』は、北米やインドを中心に鋳造技術者や現場エンジニアの間で広く読まれていて、鋳造技術の「バイブル」と呼ばれることもあるそうです.今回、初版を入手して読んでみました、の第二回です

ルール3 湯面を乱さない Avoid laminar entrainment of the surface film (the non-stopping, non-reversing condition)

鋳型充填中に、湯先(メニスカス)が一度も停止せず、一度も後退せず、常に連続的に前進・拡大し続けるように充填しなければならない.

層流で注湯できても、酸化膜の巻き込みは起こる

鋳型内を前進している湯先は丸い形をしています.停止したり後退すると一瞬平らになり、表面積が減少するため余った酸化膜が折れ込み二層酸化膜になってしまうそうです.徐々に膨らむ風船(progressively inflating balloon)のように鋳型内の湯先のすべての場所が常に前進し、常に新しい表面を作り、一度も止まらないことが大事ということ、とのことです

「注湯中に止めない」は当たり前すぎる気もしますが、鋳型内でそうなってるかがポイントです.

湯先が停止すると
・停止中に厚い酸化膜が形成される
・後で圧力が上がり再流動が始まると、この厚い膜の上に新しい湯が乗り上げ、新鮮な酸化膜で覆う
・結果、非対称な二重酸化膜が形成される(片方は厚く静止していた古い膜、もう片方は乗り上げてきた薄い新しい膜)
・これは縦方向の管状クラックや、鋳物全周にわたる水平方向の大きなラップ欠陥になり得る

前線が逆行すると
・湯先が、逆行に転じる直前に一瞬「平坦化」します
・平坦になった形状は表面積がわずかに小さくなるため、余った表面がランダムに折り畳まれて巻き込まれる
・これが微小だが厄介な表面クラックを形成する

垂直進行に停止すると
鋳物断面積が急激に拡大する箇所では、前線の進行がほぼ停止してしまいます.これにより、その原因箇所とは離れた、一見無関係な場所にラップ欠陥が現れることがあります.この「酸化物ラップ」は、外見が似ている「コールドラップ」(凝固欠陥)とは別物です

鋳型内に滝落としがあると
鋳型底面に下向きの段差があると溶湯はそこに落ち込みます.その間、湯面は進むことができず停止します.その結果
・停止した場所では厚い酸化膜が成長する
・落下流では酸化膜チューブ(oxide flow tube)が形成される
・再び流れ始めると酸化膜ラップ(oxide lap)ができる
・落下流周りの円筒状酸化管が、時折剥がれ落ちて溶湯に混入し、ランダムな欠陥を引き起こす
・落下ジェットは臨界速度を超えやすく、バイフィルムを新たに巻き込む
・湯面上昇とともに管はその場で厚みを増し、垂直軸周りの円筒状クラックとなる
・滝作用の間、鋳型内の他部分の湯面上昇が中断され、水平方向の大きなラップ欠陥を生む

水平面も要注意
広い水平面では、湯面は均一に前進できません.

川が蛇行するように一部だけが先に流れ、流れない部分では酸化膜が厚くなります.その後、後続の溶湯がそれを飲み込むことで、酸化膜チューブやbifilmが形成されます.そのためCampbellは、広い水平面は避けるか、鋳型を傾けて充填することが望ましいと書いてます.そういえば、近いことが九州の鋳造所でありました.当社からのアドバイスは、方案が変えられないなら少し傾けて充填できないかと技術責任者が指摘したものでした.図面から木型を起こす際にこの点を知っていればこの手の不具合を回避できそうです

逆行(hesitation and backtracking)

湯先が一時停止すると、多くの場合わずかな逆行を伴います.

・オーバーフロー開始時
メニスカスの曲率のため、あふれ出る瞬間の湯面はオーバーフロー高さよりわずかに高い(Al合金で約12.5mm、セシルドロップの高さ相当)ため、オーバーフローが始まると表面張力に支えられなくなり湯面が約6mm下がる → 遠方のメニスカスが平坦化する

わかりにくいですね.

液体は表面張力のおかげで少し盛り上がれます.つまり「⌒」こういう形になります.この盛り上がりがセシルドロップ高さ約12.5mmです.ところが溢れ始めると支えがなくなり「◡」こうなり液面が下がります.すると遠くの液面もつられて少し後ろへ引っ張られます.だから逆行してしまうということのようです

・前進中の慣性効果

運動量の変動により軽微な重力波が生じ、湯面がゆっくりと上下にスロッシング(sloshing)、サージング(surging)する

例えばバケツの水、歩いていると水が「~~~」と揺れます.これがスロッシングです.溶湯も同じで、少し流量が変わると「~~~」ができ、湯先を戻したり押したりします.

こういった湯面、湯先の乱れ(停止、逆行、揺れ)が原因で酸化膜が厚くなり、次に進む溶湯で折りたたむので二層酸化膜が完成すると言いたいようです.停止によって酸化膜が厚く成長し、次に来た溶湯で押されて欠陥の原因になることが問題なんですね

Rule 2では「速すぎる流れは危険」という話でした.
Rule 3では、それに加えて「止まる流れも危険」であることが示されています.

理想の充填とは、
ゆっくり、そして止まらずに前進し続ける充填、

湯面を生かし続ける(keep the meniscus alive)

AI生成のイメージです


ルール4 気泡損傷を避ける Avoid bubble damage

気泡は、ただの丸いガス孔では終わらない.溶湯中を上昇するときに酸化膜の“尾”を引き、その尾が長いbifilmとして鋳物中に残る.これが bubble damage.

つまり、気泡そのものより、気泡が通った跡=bubble trail が危険という考え方です.

前回ブログでお伝えした低鋳炉で起きる発泡も、大気(空気)で押してますので、気泡損傷を受けてますね.

これは知りませんでした

1. 気泡は酸化膜に包まれている

アルミ溶湯中に空気が巻き込まれると、その気泡表面にもすぐ酸化膜ができます.気泡は浮力で上に上がろうとしますが、酸化膜の皮に包まれているため、単純な裸の泡ではありません.気泡が上昇するとき、この酸化膜の皮が破れ、また新しく酸化し、また破れます.その結果、気泡の下側に酸化膜が集まり、長い尾(trail)を引きます.これが bubble trail(長いbifilm)です

2. bubble trailは、断面で見ると「潰れた管」のような星形をしており、中心部分は酸化被膜の剛性のため完全には潰れきっていません.これは鋳物の対向する表面をつないでしまえば、あるいは機械加工で切断されれば、リークパスになり得ます.酸化膜が dry面同士で接触しているので、Campbellのいう典型的な bifilm crack になります.

つまり、気泡は抜けても気泡の通り道は残る.そこが割れ(強度不足)・リーク経路になる

3. bubble damage は引け巣と間違えられやすい

Campbellは、bubble damageはしばしば収縮巣・引け巣と誤認されると言っています.理由は、形が不規則で、デンドライト間引けのように見えるからです.Campbellは、慎重に見ると両者は区別できると述べています

Dry面同士で接触した潰れた管状をしているそうですので、水素が析出したり溶湯が届きにくく(充填されない)ようになるのかもしれません.

とはいえ筒状に見える(ガスではない)、引け巣が繋がったように見えるボス端部の欠陥は見たことがあります.Buble Damage(潰れた管状の二層酸化膜)が放熱が悪い成分として厚肉部に押し出された結果の複合欠陥として観察されたものかもしれません.bubble trailがどの程度充填を妨げるのかについては、Campbellの説明だけでは十分に証明されているとは言い切れないかなと思います.bubble trailが原因でできる鋳造欠陥については、覚えておいて損はないかもしれません.今後はこの点も現場でよく観察することにします

Rule 4の実務的な結論は明確です.

気泡を後から抜くのではなく、最初から入れない.対策としては以下の通り、だそうです
・円錐形の湯口カップを避ける
・offset stepped basin を使う(日本では見たことありません)
・湯口は正しくテーパーさせる(ベルヌーイカーブ推奨)
・湯口の段差・ズレ・逆テーパーを避ける
・湯口下の 湯溜まり は使わない
・注湯を途中で止めない
・湯口カップの液面を設計最低高さ以下に落とさない

(詳細は書籍に当たってください)

空気の気泡が通った跡には酸化膜の傷跡が残る.そして気泡は抜ければ終わりではない.だから、気泡を鋳型内に入れてはいけない.ということですね

Rule 4は、Rule 2(乱流巻き込み)・Rule 3(表面膜の巻き込み)で生じた気泡が、単体で消えるのではなく「トレイル」という恒久的な線状欠陥を残すという点に焦点を当てています.

そして実務上最も重要なメッセージは:

気泡損傷は収縮巣と誤認されやすく見逃されてきた最も一般的な欠陥(カスプサイズで判別可能だそう.Cusp sizeとは尖った谷に見える部分).湯口下の湯溜まりは設けるべきではなく、十分なRでそのまま曲げるべし.注湯口は十分深く保ち、レベルを絶対に最低ラインより下げない.最低ラインというのは、湯口が空気に露出しないラインのようです.

AIイメージです

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