フラックス処理用のSSパイプが傷む—その原因と対策

セラミックコート焼結した20Aのパイプ

20A x 1,330mm ※15Aタイプはありません

耐溶損インジェクションパイプ

ランスパイプが1ヶ月もつという会社さんもあれば、「交換したばかりなのに、もうパイプが薄くなっている……」という工場もあります

その違いの原因は何でしょうか

そもそも、なぜパイプが溶けるのか?

鉄製のパイプをアルミ溶湯に浸けると、接触した界面に反応層(Fe-AlやFe-Al-Si系の金属間化合物)ができます。この層が少しずつ成長・剥離を繰り返すことで、パイプの肉厚がじわじわ削られていく——これが溶損の正体です。

「Siが高いほど鉄を侵食しにくい」——現場でそう聞いたことがある方もいるかもしれません。実はこれ、正しい理解です。

Al溶湯中にSiが多いと、界面にFe-Al-Si系の反応層が形成され、これがある程度バリアとして機能します。研究レベルでも「Si%が高いほど反応層の成長が抑えられる」、つまり鉄が溶けにくい方向に働くことが報告されています。

確かに界面反応に影響する因子のひとつではあるのですが、それだけでパイプ寿命を語るのは難しいのが現場での実感です。

現場で溶損速度を左右するのは、むしろこちらの要因です。

  • 溶湯側のFeの飽和度(まだ吸収できるか)

  • パイプとの接触時間と局所温度

  • 撹拌や流れによる反応層の剥離

  • パイプの材質と反応層の保護性

Si%だけを見て「この合金は大丈夫」「この合金は危ない」と判断すると、材質選定を誤るリスクがあります。

低Feのアルミ合金が要注意

たとえばSilafont-36はFe含有量が0.15%以下に抑えられた低鉄アルミ合金です。溶湯中にFeが少ないということは、溶湯が「まだFeを吸収できる余力がある」状態ということ。その分、鉄パイプからFeを積極的に取り込もうとするため、消耗が加速しやすくなります。低Fe管理されたAl-Si溶湯はFeに対して未飽和であり、鋼材接触時にFeの溶出・反応消費が進みやすいと考えられています

SUSはむしろダメ

消耗に悩んで「材質を変えよう」となったとき、まず候補に考えがちなのがSUSです。

SUS(ステンレス鋼管)

「錆びにくい=長持ちするのでは?」と考えたくなりますが、アルミ溶湯では話が変わります。

アルミ溶湯中の実使用では必ずしも長寿命とは限りません.むしろダメ

1)SUSはSSよりも熱伝導率が低く、膨張係数が大きいです
溶湯からの出し入れで内部に応力が溜まり、表面の反応層(酸化層)が割れます.

2)SUSにはNiやCrを含みます
NiやCrはアルミ溶湯と接触すると複雑な金属間化合物を形成します.その後、応力割れや繰り返し使用により表面の反応層が剥離し、ボロボロと崩れるように損耗します.Al-Ni系化合物も、Al-Cr系化合物も比重が重いため炉底沈降物になりやすいですが、酸化アルミやガスを巻き込んだ複合片になると湯面に浮き、ラドルに掬われると製品中に入ってしまい欠陥となります

ステンレスとはいえ主成分は。NiやCrがアルミ溶湯と直接接触している以上、反応層の形成と溶損は避けられません。材料コストがSSより高い割に、寿命の改善幅が小さいケースが多く見られます.一方でSSは徐々に肉厚が減る形で損耗するため、結果として現場ではSSの方が長く持つと感じられます.

低Feアルミではないのにランスパイプが溶損する場合は下記をチェックしてみてください

1)フラックス処理中の温度を下げれないか
カナエフラックスは670°Cから反応します.下げても670°C以上にしてください

2)良かれと思ってSUSパイプを使ってないか
内部応力割れと反応層の剥がれ.SUSは応力割れを起こすため速く傷みます

3)回転脱ガスしているところに鉄パイプを入れてないか
反応層が流速によって剥離していくため速く傷みます

各化合物の比重

パイプの内側にもライニング

セラミック被覆のため内径は19.6mmと、20Aのわりにはやや狭め

セラミック被覆鋼管とは?

そこで注目したいのがセラミック被覆鋼管です。

鋼管をベースにしながら、接液面と内側を特殊な保護層でコーティングした構造になっています。鉄がアルミ溶湯に直接触れないため、Feの溶出を抑えることができます。

湯跳ねが大丈夫か

当社のフラックスフィーダーでは、湯はねはほとんどの場合大丈夫です.危険な湯はねはフラックスの切り出しが間欠的な場合や、秒当たりの供給量にムラがある場合に起きます.カナエのフィーダーはフラックスの切り出しが無段階に調整でき、単位時間当たりで一定量ずつ供給できます.

しかし20Aにして湯はねは大丈夫なのか、気になるお気持ちもわかります.ご想像どおり15Aと比べて、20Aの方が気泡が大きく成長しがちです.大きくなってから浮上すると湯はねが大きくなる可能性があります.気になる場合は以下のように対策してください.

(20Aとはいえセラミック被覆鋼管は被覆の厚みと、出口付近の液溜まりもあって狭くなっているので15Aの内径とあまり差がなく、気泡(湯はね)は小さくなる傾向です)

対策

1)湯はねしてもいいように周囲を養生する、保護具をしっかり装着する
2)以前紹介した円盤状のもの(例:丸鋸刃)をパイプに付けるて跳ねをブロックする
3)流量をうまく調整する

フラックスをガスに運ばせる仕組み上、ホース内では最低10m/s〜ほどの流速が必要です.0.4MPaの圧力で、流量はこの範囲で調整してみてください.遅いと5mのホース内で沈降→狭窄→閉塞します

(流量計からホース内流速が概算できます)
44L/min(実流量で20L/min)→10.7m/s(5mのホース内流速)
55L/min(実流量25L/min)→13.4m/s(ホース内流速)

ゴムホース(内径6.3mm)を通り抜けたフラックスは慣性と重量でパイプ内を落ちて行きます(ガスの流速はパイプ内では2〜1m/sに急減速しますのでガスではもはや飛びません)

一方で、フラックスの停滞・閉塞を起こさないために

流量は大き過ぎても、絞り過ぎてもダメです.上述のとおり、ホース内での流速は常に最低10m/s必要です.フラックスは常に一定量ずつ切り出し続けているからです.流速が出なくなったときにはフラックスが飛んでくれず、スクリューケースの直下やホース内で沈降して狭窄、やがて閉塞します.

流量が落ちてしまう状態はランスパイプを底突きした場合にも起きます.ガスの出口がなくなってしまうからです.深さを探る場合は斜めに着地してください.

フラックスを閉塞させてしまった場合は、(フラックスの切り出しスイッチをオフにして)できるだけセラミックコートのない鋼管部分をカンカン叩きながら、パイプに入った溶湯が抜けるようにまっすぐ溶湯から引き抜いてください

四分(15A)と六分(20A)のユニオン

内径は16.1mmと21.6mmですが、断面積は約1.8倍差

さて、湯跳ねせず、フラックスをランスパイプまで飛ばす設定ができれば、後はフラックスをできるだけ減速させずにパイプ内を落とすだけです

当社の標準使用ではランスパイプ側に六分(20A)のユニオンを採用していますが、この先で結局15A(作業時の持ち手になるニップルです.非消耗品部)に絞っています.粉体配管が途中で太ると、その部分で減速、壁面衝突が起こりやすくなるとも言われていますので、15Aユニオンの方が良い可能性があります.

出荷時の製品仕様(20Aソケット)でも問題は出ていませんが、気になる方は持ち手側ニップルにつながるユニオンを15Aに変えてみてください.

消耗品部に20Aを使う場合には、この直前部分で15A x 20Aの異径ソケットで広げてください

溶損が課題、もしくは困ってはいないけれど気になる、セラミック被覆鋼管を試してみたい方は神戸オフィス(info@kne-hitec.jp)までご連絡ください.無料サンプルはありませんが、1本から販売が可能です(本数がまとまれば多少安くなる可能性があります)

保持炉洗浄のご相談もお待ちしております(全国出張可).まずはWeb会議の予約から

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