ナトリウムが引き起こす3つの異変 / The Triple Threat of Sodium in Aluminum Casting
「溶湯表面が部分的に青っぽい」「虹のように見える」などと感じることはありませんか / Bluish rainbow appearance
今回は、その「青」の正体についてお話しします.
溶湯が青や虹色に見えるのは、ナトリウム(Na)の影響によって溶湯表面の酸化皮膜の性質が変化するためです.
アルミ溶湯の表面には通常アルミナの薄い酸化皮膜が形成されますが、Naが存在すると酸化皮膜の組成が変化し、Naを含む複合酸化膜が形成されます.この酸化膜は非常に薄い膜であるため、光が膜の表面と内部で反射して干渉し、青や虹色のような干渉色として見えることがあります.
Naは共晶の改良材として使われるため、あえてタブレット状のものを投入して添加している場合もあります.粗大な板状や針状のシリコン(Si)を微細な粒状に改良させ、機械的特性を向上させるためです(この目的にはNaよりSrをお勧めします).
一方で「うちはNaは入れていない」という声もよく聞きますが、調べてみると使用中のフラックスにNa化合物が含まれていたというケースは珍しくありません.長年使い慣れたフラックスでも、SDSを確認したことがない方は意外といらっしゃいます
フラックスの中にはNa化合物を含むものが多いです
Flux-Source Sodium: A Potential Risk
一度、お手元のフラックスの SDS(安全データシート) の成分欄に Na や ナトリウム、ソーダの表記がないか確認してみてください.
なお、SDSにすべての成分が記載されているとは限りません.「分からない」という場合は、ご相談ください..ナトリウムを添加しているつもりがないのに、溶湯中にNaが混入しているケースは少なくありません.
水素ガスを呼び込むNaの影響 / Hydrogen Gas Absorption
ご存知のように、ナトリウムが溶湯に含まれていると水素を吸収しやすくなり、ピンホールなどのガス欠陥が発生しやすくなります.これはナトリウムが、溶湯表面の状態や酸化皮膜の性質を変化させることによって起こる現象です.
主な要因は次のように説明されています.
ChatGPTによるイメージです
1. 水蒸気とアルミニウムの反応
そもそもアルミ溶湯はに、大気中の水蒸気と反応して水素を発生させる性質があります.この反応で発生した水素は溶湯中に溶解し、凝固時にピンホールなどのガス欠陥の原因になります.しかし通常の湯面にはアルミナからなる酸化皮膜が形成され、溶湯と大気との直接反応を(ある程度)抑えるバリアとして働いてくれています
ここにナトリウムが存在すると、この酸化皮膜の組成や性質が変化しバリアとして働かなくなります
2. 酸化皮膜の性質の変化
ナトリウムのいるアルミ溶湯表面の酸化皮膜は純粋なアルミナではなく、Naを含む複合酸化膜です.このような皮膜は通常のアルミナ皮膜に比べて構造が不安定になり、攪拌や流動によって破れやすくなることが知られています.その結果 溶湯と大気が接触しやすくなり、水蒸気との反応や酸化反応が起こりやすくなります
3. 二重酸化膜(bifilm)の形成
この不安定な複合酸化膜が破れて溶湯内部へ巻き込まれると、しばしば酸化膜が二枚重なった状態になります.二重酸化膜(bifilm/バイフィルム)*と呼ばれ、鋳造欠陥の原因としてよく知られています.*Campbell理論
この二重酸化膜の内部には微小な空隙があり、水素の集まりやすい核になります.凝固時に気泡として成長することで、ピンホールなどのガス欠陥として現れます.引け巣の中に酸化物巻き込みとガスも集まるような欠陥をよく見かけますが、この可能性があります
4. 表面張力の低下と水素の再吸収
またナトリウムはアルミ溶湯の表面張力を低下させる元素として知られています.表面張力が低下すると、溶湯表面の酸化皮膜がさらに破れたり折れ曲がったりしやすくなり、皮膜は断片化した多孔質構造になり大気に触れる表面積が増えてしまいます.湯面以上の表面積が大気に触れるためどんどん水素が入ってきます
そして脱ガス処理によって一度水素量を下げても、Naがいる限り水素を吸収しやすい状態は変わりませんので、脱ガス処理後も水素量が回復しやすく、また湿度が高い環境ではピンホール欠陥が増加しやすい傾向があります.
次は、粘性について
Na添加溶湯が“ネバネバ”になる理由 / "Sticky" Behavior of Sodium-Treated Aluminum
ナトリウムが溶湯に含まれていると、溶湯の流れが悪くなり、現場では「ネバネバした感じ」と表現される状態になることがあります.当社の熱分析においても、Naを添加するほどに共晶温度が低下し、かつ凝固時間が長くなる傾向が確認されています.
この現象は溶湯そのものの粘度が増したように見えますが、酸化物の生成や誤った溶湯処理により酸化物の練り込みが増え、溶湯が不純物を多く含んだ状態になることによって起こると言われています.主な要因は次の通りです.
ChatGPTによるイメージイラストです
1. 酸化物量の増加とスラッジ生成
アルミナの蓋が形成されないため、酸化物の生成や溶湯内部への巻き込みが増える傾向があります.その結果、酸化物が溶湯中に微細な粒子としても分散しやすくなります.これらの酸化物は固体粒子として溶湯中に存在するため、量が増えると溶湯はスラリー状の状態になり、流動抵抗が増します.
2. 表面張力の低下による薄〜い酸化膜の巻き込み
そしてアルミ溶湯の表面張力が低下すると溶湯表面に形成される酸化皮膜が破れやすくなり、容易に溶湯内部へ入っていきます.巻き込まれた薄いぶよぶよとした酸化膜は溶湯中で膜状の不純物として分散し、溶湯の流れを妨げる要因になります.
3. 凝固挙動の変化
ナトリウムそのものやナトリウム酸化物はAl-Si合金の共晶反応に影響を与え、凝固開始温度の低下や固液共存状態の長時間化をもたらすことが知られています.そのため温度が低下して凝固に近づいた領域では半溶融状態が長く続き、「なかなか固まらない」「粘り気がある」と感じられることがあります.
Naが引き起こす材料トラブル / Other Issues Caused by Sodium
あくまでもChatGPTによるイメージイラストです(正確ではありません)
ナトリウムは溶湯や炉への影響だけでなく、合金の機械特性や凝固組織にも影響を与えることがあります.
1. Al-Mg系合金における熱間脆性
Al-Mg系アルミ合金では、Naが数ppm程度残っているだけで、加工中に割れやすくなる「熱間脆性」を引き起こすことがあります.
ナトリウムはアルミ中への固溶度が非常に小さいため、凝固時に粒界へ偏析しやすい元素です.この粒界に偏析したNaが粒界の結合力を弱めることで、加工時の割れ感受性が高くなると考えられています.
もし現在、AC7AやADC5の鋳造で原因不明の「ひび割れ」や「伸び(靭性)の不足」が発生している場合は、発光分光分析などでナトリウムが混入していないか確認することをおすすめします.当社では不良サンプルをお預かりしての受託分析も行っております.
2. 過共晶Al-Si合金におけるリン微細化の阻害
過共晶Al-Si合金では、リン添加によって生成するAlP(リン化アルミニウム)粒子が初晶シリコンの核生成サイトとなり、シリコンを微細化することが知られています.
しかし溶湯中にナトリウムが存在すると、ナトリウムがリンと結合しやすいため、AlPとして機能すべきリンがナトリウムに消費されてしまいます.その結果、核生成サイトが減少してリンによる微細化効果が弱まり、初晶シリコンが粗大化することがあります.これが機械特性や加工性に悪影響を及ぼす場合があります.
※なお、上記の機序は諸説ある中でも比較的有力とされている説です.当社では、ナトリウム系フラックスは、溶湯にNaが残留していることを気づきにくいことや熱分析で得られた知見も含め、溶湯に与えるデメリットは大きいと考えています.自信を持ってカナエフラックスをお勧めします
(前編はここまでとなります)
ナトリウムの影響はそれだけではありません.
次回、炉そのものにも長期的なダメージを与える可能性についてや、解決策、セルフチェックリストを予定しています.
さて、こうしたナトリウムの影響は、溶湯中だけでなく炉内の付着物や沈降物にも蓄積していきます.日々のノロ取りだけでは取りきれない酸化物や反応生成物が炉底や炉壁に残り、それが溶湯に影響して「粘る溶湯」「湯流れの悪さ」の原因になることがあります.
保持炉の洗浄サービスのご紹介 / Restore Your Melt Quality
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当社のフラックスを使用した洗浄は、単に溶湯をきれいにするだけではありません.積もりに積もったナトリウム由来の「粘りの原因」も根こそぎ分離・排出します.保持炉ないを一度リセットした後、カナエフラックスを継続使用されると効果的です.追加費用はかかりますが、同時に溶湯管理勉強会や、熱分析もおお勧めします.分析結果のレポートも有料ですが承ります.
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「一度、うちの炉を見てほしい」というご相談もお待ちしております